超短編小説「猫角家の一族」その1~12まとめ

猫角家の一族の生活を一変させたのは、姉妹の母親である猫角えつかの死であった。

「株式会社猫角えつか」を細々と経営していた一族は、母親の死で、びっくりするほど巨額の資産を一挙に手に入れたのだ。会社で掛けていた経営者保険と団体保険から2億を超える保険金が支払われた。残された姉妹は、見たこともない大金を掴んで、思わぬ幸運に小躍りした。

株式会社猫角えつかの経営は決して楽ではなかった。設備投資ができない弱小介護会社に、客は寄り付かなかったのだ。だが、会社の経理状況は、保険金のおかげで一転して良好となった。二人は、贅沢三昧を始める。

母親に代わる経営者には、長姉の克子が就任する。だが、知恵袋は、妹の蜜子だ。京都の当事者大学の法学部を出た蜜子は、地元の不幸禍大学の大学院で修士号を取得した。そののちは紆余曲折あったが、母親の残した弱小会社を拠点に、詐欺三昧の人生を開始したのだ。

考えうるすべてのチャンスを利用して詐欺を働く。働かないで、銭を手に入れる算段だ。手始めは、自動車事故詐欺だ。気心の通じた不良自動車修理工場を使って、起きてもいない自動車事故をでっち上げる。壊れていない車が大破したことにして、車両保険を詐取する。不良修理工場のネットワークが出来上がっている。必定、事故は、特定の修理工場の近くで起きたことにしなければならない。結果、名古屋周辺でばかり事故が起きる。

猫角の会社は乗用車4台を保有している。この4台を交互に事故に遭わせる。同じ車では、続けて何度も偽装事故を起こせないからだ。結果、年に4回も交通事故を起こしたことにするのだ。

また、保険会社には、頸椎ねん挫で半年間、働けなかったと通告し、休業補償を手に入れる。これを、年4回、別々の車でしくみ、結果、一年順、休業補償を受給するのだ。(続く)

この詐欺行為には、医師の協力が必要だ。だが、裏社会御用達の医者は、たくさんいる。謝礼を出せば、いくらでも診断書を書いてくれる。ようするに詐欺に協力する「各分野の専門家」が「詐欺集団」を形成しているのだ。保険に詳しい指南役もいる。

さらには、自損事故だけではなく相手方のいる事故も偽装する。第三者に被害を加えてしまったことにして、第三者の医療費、慰謝料、修理代を保険会社から詐取する。第三者は、勿論、身内の犯罪仲間だ。勿論、事故は架空だ。かすりもしていない。名古屋辺りの自動車修理屋が、その類のクズを斡旋してくれる。保険会社から入った金を第三者と山分けする。ちょっともったいないが、仲介者の修理屋にも分け前を渡す。

しかし、偽事故を繰り返していると保険会社から目をつけられる。証拠がないから、詐欺と見破られても実害はないが、保険を継続できなくなる。保険料が異様に高くなる。等級は最低ランクになってしまっている。困った姉妹は、あちこちの手蔓を使って、自動車保険を掛ける算段をする。普通の自動車保険は、どこも引き受けてくれない。ちょっとやりすぎたのだ。そこで、知り合いの真っ当な修理工場に話を持ち掛ける。修理工場のT氏は、猫角姉妹のために親身になって、保険を探す。善意から出た行為である。そして、ミニフリート契約という複数台で加入する契約を見つけてくる。保険会社は渋ったが、信用あるT氏の頼みゆえ、ついには折れて保険を引き受ける。だが、4台で保険金は40万円を超えてしまう。

とにかくいったん保険に入れば、次は偽装事故である。猫角姉妹の錬金術は、また、再開するのであった。(続く)

2000年に介護保険制度が施行されて以来、介護事業所は2006年までに4万件以上に達した。その後も介護施設の需要は伸び続けているが、厚労省の社会保障費抑制の方針から、介護報酬減額が実施され、介護事業所の経営を圧迫している。結果、2007年以降は、介護事業所の倒産が相次いだ。生き残るためには、同業者とのサービスの面で競争しなければならないが、人手不足でそれもままならない。立派できれいな施設を持っていなければ、客を惹きつけることもできないが、とても、そんな施設建設費など工面できない。介護事業は甘い世界、簡単に儲かる世界ではなかったのだ。

大学で老人介護を研究した猫角蜜子は、介護事業が簡単には儲からないことを人一倍知っていた。だから、姉と一緒に引き継いだ会社を守るため、人とは違うことをやると決めた。

「徹底的に助成金を貰いまくるしかないわ。」

「どうせ、どこの事業所だって、多かれ少なかれ助成金詐欺やってるんだから。」

かくして、猫角姉妹の介護事業は、助成金詐取事業へと変化していったのである。

姉妹の会社は、ネコネコハウスなる介護施設を九州で展開していた。だが、貧弱で不衛生、設備も揃っていない施設を選ぶ客など、ほとんどいない。実質、経営実体のない幽霊施設なのだ。また、介護の現場で働く人たちも、設備の整っていないネコネコハウスなど眼中にない。いくら募集しても、面接にやってくるのは、自分が介護を受ける側に半分なっている老人ばかりだ。(続く)

だが、やってくる就職希望者が高齢者なら、それはそれで金を生むことができるのだ。

「特定就職困難者雇用開発助成金」なるものがある。60歳以上の高齢者や母子家庭の母などの特定就職困難者を雇用すれば、一人当たり240万円の助成金をネコネコハウスは役所から受け取ることができるのだ。だが、一旦助成金を受け取れば、老人従業員などいても邪魔になるだけだ。さっさと、首にしたい。重い物を運ぶ仕事を押し付け、汚れ仕事をやらせ、パワハラで追い詰める。毎日、薄汚い罵倒句で苦しめる。大概は一週間もしないうちに、腰と心を痛めて、自ら辞めてくれる。

蜜子は、なかなかやめようとしない65歳の新人従業員が必死に働いている後姿を冷ややかに見つめている。そして、はっと顔を上げる。何か、思いついた様子だ。そうだ、団体保険の手があったじゃないのと。65歳新人従業員を金に換える手段を思いついたのだ。だが、その発想の実行は、少し後になる。冷徹で冷酷な計算が、蜜子の脳裏で開始されているのだ。

次に蜜子が目をつけたのが「介護福祉機器等の購入費用」の助成金だ。上限で300万円まで助成を受けられる。だが、本当に機器類を購入してしまえば、300万円など吹き飛んでしまう。そこで、狡賢い手を使う。福祉機器類は、リースで手に入れる。そして、役所の監査が入るまでの短い間だけ、事業所に置いておく。実際には使わないから電源すら入れないままだが。

役所の立ち入り検査は、役所の内部にいる「仲間」からの連絡で事前に分かる。だから、検査に備えて、一時的に施設をできるだけ飾り立てておく。だが、もともと、コストを掛けていないダミー施設だ。建物も築40年のボロボロ平屋だ。役人が見れば、一目でインチキ施設だと分かってしまう。(続く)

猫角克子蜜子姉妹は、些か不用意だった。リースで手に入れて役人に見せるだけの目的でネコネコハウスに置いてある機器類が「リース品」であることを、ある部外者に口走ってしまったのだ。部外者は、違和感を感じた。そして、「事件」の解明が進展するにつれて、何故、リース品だったのか理解するに至ったのだ。さらに、部外者が、そのリース品のコピー機を借用した時、克子はまた過ちを犯した。コピーの使い方を聞かれて、使ったことがないと正直に喋ってしまったのだ。つまり、コピー機は、ダミー目的でただただ置いてあるだけだったのだ。

介護事業の脱法的儲け手口といえば、助成金詐取よりもなによりも「介護報酬の不正請求」手口である。2006-2007年に発覚したコムスン事件では、介護報酬の不正請求や違法な指定申請が発覚して、厚生労働省は、同社の事業が継続できないような処分を下した。コムスンは、訪問介護最大手であり、全都道府県の企業に分割譲渡されて、企業体は消滅した。約6万人の利用者が影響を受けて、右往左往した。従業員2万名が仕事を失った。親会社のグッドウイルグループも消滅する運命となった。

最大手のコムスンですら、この体たらくである。中小の状況はさらに悲惨である。2014年に全国に7300ほどあった特養ホームの30%近くが赤字になっている。特に収容人員29人以下の小規模施設の4割は赤字だ。小さいほど、経営は難しいのだ。2000年の介護保険開始から15年間で、1714カ所の事業所が「ズル」を咎められて、介護事業所の指定取消処分を受けている。そうなると、介護報酬を一切請求できなくなる。

(株)猫角えつかの介護事業も、勿論、不正請求まみれ、違法な指定申請まみれである。本来ならば、たくさんある介護施設の一つでもルールを破れば、全事業所の指定が取り消されるのだ。だが、コムスン事件が発覚するまでは、厚労省もかなりいい加減な管理をしていた。だからこそ、コムスン事件が起きたのだが。不正が発覚した事業所は閉鎖してしまう。そして、その事業所の客は、近くに別の事業所を作って吸収する。これで、不正はそれ以上追及されないで済む。厚労省のお目こぼしが不正を助長してきたのだ。猫角姉妹は、この厚労省の怠慢を十二分に利用して儲けた。

だが、いくら儲けても儲けても、ギャンブル好きの蜜子が湯水のように使ってしまうのだ。ちょっと損をすると熱くなった蜜子は、損を取り戻そうとさらに相場を張って、損失を10倍に拡大させてしまったのだ。会社の儲けは、みるみるうちにFX市場に消えていった。儲けが消えるだけならまだいい。いつの間にか億に近い負債を抱え込んでいる。こうなると、介護事業などいくらやっても追いつかない。FXを始めた当初、まぐれでそこそこの金を手にしたのがまずかった。蜜子は、FX賭博の美味しさを知ってしまったのだ。だが、蜜子がFXで莫大な借金を抱え込んでいることを、姉の克子は知らない。もし、克子がそれを知ったら….蜜子は、直情的な姉に詰られるのをひどく恐れる。(続く)

火の車のネコネコハウスである。

厚労省がらみの助成金は、パートタイマーの雇用、正社員転換制度の実施、健康診断の実施といったひとりあたり3-40万円の少額のものまで申請し受給する。だが、実は、従業員など殆ど雇っていないし、募集してもネコネコハウスなんかに来る人はいない。勿論、客もろくに来ないが。

九州厚生局に目をつけられて監査が入る前に、やばくなったネコネコハウス支店は店じまいする。監査逃れが閉鎖の理由かというとそれだけではない。あらかた、使える助成金は全て受給してしまったのだ。ネコネコハウス支店を存続させても、経費が出ていくだけなのだ。

あらたなネコネコハウス支店を別住所ででっち上げる。マンションの一室を借りて営業していることにするが、事業の実態はない。不動産を全く借りずに架空の住所で始めた支店すらある。例のリース機器を新しい支店に持ち込んで、福祉機器をまた購入したことにする。300万円の助成金を詐取する。新規に老人やシングルマザーを雇用したことにする。助成金を手に入れる。これを繰り返す。ネコネコハウスの支店が10店舗にまで増えていく。だが、同時に、廃止する支店も増えていく。平均して3年で、閉鎖する。九州厚生局の管轄ばかりでは、目をつけられる。京都でもインチキ事業の展開を偽装する。こっちは、近畿厚生局の管轄となるので、しばらくの間は、やりたい放題できる。

介護報酬の不正請求、助成金詐取が、ネコネコハウスの主たる収入源である。全然足りない。FXで億に近い欠損を出した蜜子は、抜本的な一攫千金策を模索する。パワハラで追い出した65歳の従業員の背中を思い出す。列車の到着を待つプラットホームで、背中をちょっと押してやれば、あの婆さんは、あの世に行ける。どうせ生きていても誰も喜ばない。だったら、お金を作るネタになって死んだ方が人に喜ばれるじゃないか。人の命を金に換える算段を始める蜜子。(続く)

ネコネコハウス紂王、ネコネコハウス祟り、ネコネコハウス兇徒、不幸禍訪問看護ステーション、(株)猫角えつか不幸禍本社、ネコネコハウス異魔伊豆未、株式会社 自営尾行….実際にそんな事業所があるのかと調査してみると、実体のない事業所が複数見つかる。近所の人に聞いても、「そんな施設はない」と言われる。あっても、とても介護事業などできないような古びた廃屋のようなところだ。

一体、何を目的に次から次にダミーの事業所を設立するのか?やはり、様々な助成金を手に入れるのが主たる目的だ。だからこそ、猫角姉妹の会社の「定款」は、読んでいると気が遠くなるようなフルスペックの記載で満たされている。ありとあらゆる「助成金」を申請するためには、ありとあらゆる「業種」に従事していると偽装しなければならないのだ。だから、「定款」が著しい「満艦飾」になるのだ。

猫角克子は「古物商」の免許すら取得している。なにゆえに?些か背筋が寒くなるような裏事情がありそうだ。「成年後見制度」というものがある。認知症の老人がなくなると、後見人が財産を処分する。遺留品の処分は古物商が担当する。ライセンスが必要だ。背筋の寒さは、さらに増したであろうか?脚でも揉みたくならないだろうか?

いささかスケールの小さな話だが、福祉機器の購入資金として、一カ所に月300万円の助成を受ければ、7カ所で、合計2100万円にはなる。そして、福祉機器は購入などせず、リースで手に入れて使いまわす。ネコネコハウス祟りに置いてあったコピー機などの福祉機器は、助成金が手に入ったら、別の事業所に移動して、厚労局の監査に備えなくてはいけない。そこで、所有する4台の乗用車のうち、大型ワゴン車のアルフォードが大活躍する。この乗用車でないと、コピー機を運べないのだ。アルフォードは、「見せ金」ならぬ「見せ機械」を福岡の事業所間や京都まで移動させるのに大いに活躍したのだ。その過程で二度もドア部分を破損するなどして、そこそこの保険金が懐に入るという僥倖もあったが。(続く)

蜜子は、介護事業を通じて「老人を金に換える」方法を考える。痴呆老人の成年後見人になって、財産を取り上げる算段だ。成年後見人等による過去の犯行の履歴を調べる。

2012年、64歳の社会福祉士が、成年後見人となって、痴ほう老人の口座から、2年間で969万円を引き出した事件があった。だが、この手口は発覚し、社会福祉士は後見人を解任され、私的流用分を全額弁済させられた。

九州弁護士会連合理事長だった67歳の弁護士が、成年後見制度を悪用して、北九州市の高齢女性の預金から4400万円を自分の口座に振り込ませた。また、依頼人3人から預かった訴訟費用1370万円を着服した。老女の成年後見人だった弟に裁判所から指示があったと偽った犯行であった。九弁の理事長をやったおかげで本業がおろそかになり、収入が減ったのが犯行の動機だという。この先生は結局懲役5年の刑を宣告されている。

89歳の認知症の実母の口座から、1億3000万円を着服した61歳の息子。2004年に成年後見人に選任され、2009年に横浜家裁が行った監査で横領が発覚。解任され、告訴された。逮捕。

うーむ。成年後見人の立場を利用した老人資産の取り込みは、なかなか、ハードルが高いようだ。弁護士会のトップだった弁護士ですら、発覚して実刑を受けているではないか。(続く)

売却手続きを委託された不動産の代金8500万円を着服した75歳の弁護士。他に3億4千万円を無断で使った恐れがある。97歳の渋谷区の女性の成年後見人となり、土地とビルの売却代金の一部を懐に入れた。元事務員一名とともに警視庁に逮捕された。

合計で、4億を超える横領とは豪気だ。どうせ詐欺をやるなら、このくらいはやりたい。克子と蜜子は、鳩首を巡らす。捕まらないで億単位の金を手に入れる手段はないのかと。

成年後見人制度の利用者は増加している。2010年に14万件だったものが、2013年には17万を超えている。利用者の増加につれて、トラブルも増えている。逮捕はされないまでも、財産の横領や権限の乱用で成年後見人を解任されたケースは、2000年の10件から、2012年の254件と大幅に増加している。

さて、成年後見人として選任される者のうち4割が親族である。それ以外は司法書士が22%、弁護士が17%、社会福祉士が10%といったところだ。親族が成年後見人である場合、子が54%、兄弟姉妹が15%、配偶者が8%だ。

成年後見人制度は平成12年に始まったのだが、親族以外の第三者に任せる割合は、平成17年の22.6%から、平成24年には51.5%まで増加しているのだ。

克子蜜子姉妹は、二つの手口を思い浮かべる。親族を成年後見人に任じるなら、その親族を抱き込んでしまえばいい。司法書士や弁護士が、成年後見人となるなら、その連中と組んで、ボケた婆さんの財産を山分けすればいい。弁護士だって、苦しい時代だ。たちの悪い貧乏弁護士事務所にでも話を持ち掛ければ、渡りに船で乗ってくるはずだ。いずれにせよ、いかに「カモ」を見つけるかがこの事業のポイントだ。文句を言う親族の少ない高齢の資産家。しかもボケていてくれた方があり難い。当然ながら、97歳の婆さんがくたばってくれた方が、財産を横領しやすいならば、くたばってもらうよう取り計らう必要がある。つまり、簡単な話が「殺し」だ。97歳の婆さんを殺したところで、誰も困らない。むしろ人助けみたいなものだ。蜜子はうそぶく。(続く)

死んだ親父が遺した財産を引き継いでいる老母、92歳。親族は、独身のまま古希を迎えた長女、62歳、ただ一人。老母が死ねば、相続した不動産を処分して、大金が手に入る。だが、老母は痴呆は進んでいるものの、身体の方はいたって元気だ。当分くたばりそうにない。

こんなケースが、「親族部門」の理想的な「カモ」なのだ。ただ一人の親族である62歳長女とねんごろになり、老母の成年後見人となれるよう斡旋してやる。手続きを代行する。成年後見人となった暁には、頃合いを見計らって、老母の財産の処分、換金を密かに始める。老母の財産を処分しても、文句を言う他の親族がいないところが味噌なのだ。下手に弟でもいれば、財産処分を咎められて警察や裁判所が動き出してしまう。

長女62歳は、手にした財産から猫角姉妹に分け前を渡すことを渋るかもしれない。「もともと母さんの財産なんだから、私が相続するのが筋なんだわ。あんたら他人に分け前を上げる筋合いはないわよ。」と。

そこで、62歳長女の欲深さに付け入って、分け前を手に入れる算段をする。「お母さん、もういい加減に充分生きたでしょう?恵子さん、お母さんは92歳じゃないの。お母さんをうまく使ってもっと大金を手に入れる方法があるのよ。」老母に保険金を掛けて、保険金殺人、保険金詐欺を仕込むのだ。億単位の保険金が、ちょっとうまくやれば手に入ると解説された恵子62歳は、欲に駆られて犯行に賛同する。犯罪に加担させることで、分け前を出す気にさせ、共犯者の意識を持たせることで、秘密を守らせる。これで、完全犯罪が仕組めるのだ。母親を殺してまでしても金を欲しがるクズ女、恵子62歳だからこそ、このプロットが仕組めるのだ。

だが、問題は、恵子62歳のような理想的な「カモ」をいかに捕まえてくるかなのだ。漫然と待っていても、カモは葱を背負ってやっては来ない。いかにして網を張り、カモを呼び寄せ捕まえるか?(続く)

「確かに、ボケちゃって成年後見人が必要だと家庭裁判所が認めるケースは、90過ぎた婆さんとかだけれど、90過ぎると新たに加入できる保険なんてないんじゃないの?」

「えーとね、最近は保険業界も過当競争で、加入年齢の上限を上げた保険商品を次々出しているわけ。だから、90歳までは、現実に新規加入可能みたいよ。それに、既に加入している生命保険の中途増額制度っていうのがあるわけ。」

「ああ、知っている。定期保険特約やらを上乗せすることで、死亡保険金を増額する制度だね。これなら、90過ぎても死亡時保険金をたっぷり膨らませて一儲けできるかな。」

「まあ、一番美味しいのは、適当にダミー会社の役員にして、死んでもらって、会社が経営者保険をたっぷり受け取る手口かな。外資系の無解約返戻金型定期保険なんて言うのは、満了年齢の上限が90歳で、死亡時一口3000万円が受け取れる。まあ、日本の経営者の平均年齢が60歳を超えて過去最高となってるわけで、社長が在職中に亡くなるケースが増えている。企業としても、社長が死んだら、借入金の清算とか運転資金、自社株買い取り資金、死亡退職金とか、いろいろ出費があるわけで。そういうコストをカバーするための保険だから、結構、保険買う側に有利になっている。月8万の保険料を払っても、1年ちょっと後に死んでもらえれば、かなり実入りがある。丸儲けだな。それに何しろ社長だから、複数口の保険を掛けて億単位の保険金を受け取っても疑われないしね。」

「会社で死亡時保険金を受け取って、ちょっと後に会社を清算してしまえばいいしね。」

猫角姉妹の保険金詐欺談議に拍車がかかる。

現在の保険商品には様々なものがあり、保険金詐欺に適した商品も多々ある。だから、どこの会社のどの商品を採用すべきか、組み合わせるべきか判断できる犯罪仲間がいないとどうにもならない。また、どこの保険会社が、審査が甘くて、しかも、保険金の支払いがいいかなど、業界事情も知らなくてはならない。従って、保険商品の内容を熟知した専門家がそばに居てくれないと、「このカモには、どんな保険商品をつけたらいいのか?」の判断がつかない。どこかに生命保険業界20年の経験があり、しかも、婆さん殺して金にする荒業に平気で協力するような「センセイ」はいないのか?

いるいる。大先生がいる。(続く)

「まあ、90歳代、80歳代となると、掛けられる生命保険は限られて来るし、保険料も割高になるね。結局、70歳代のぼけ老人にターゲットを定めるべきかな。問題は、どうやって、その辺りのカモを市中から拾ってくるかなんだよね。」

「漫然と待っていても、カモは葱背負ってやってこないわよ。こちらから、アンテナを張って、カモとの遭遇を演出しないとね。」

福祉機器の助成金を詐取する目的であちこちに「形だけ」設置したネコネコハウスの介護施設は、このカモを市井からさらうサルベージ船の役割を果たすことになる。それぞれのネコネコハウスの電話番号は違うが、電話は全て転送され、蜜子の事務所に掛かってくるようになっている。老親を施設に入れて厄介払いしたいお客を一人でも多く捕まえるには、ネコネコハウスの偽支店群が役に立つのだ。

そして、もうひとつ、カモ集客に威力を発揮するのが、外部の協力者である。毎日、体のどこかの不調を持つ患者がやってくる施術院。足揉み専門のモミモミンなるチェーン店の店主が、カモ集めに参画してくれることになる。

「お客さん、だいぶお疲れね。ここ、痛いでしょ?」

「あ、あー痛い~。」

「お仕事きつくないですかね?全身に疲れがたまってますよ。」

「仕事も…やりたくない仕事をいくらやっても大した金にならないし、旦那は、リストラで首になって家でぶらぶらしているし。イヤんなっちゃうわ。おまけに、70歳の義母が早々にボケちゃって、手間がかかるのよ。施設に入れて厄介払いしたいけど、そんな金もないし。八方塞がりよ。」

「奥さん、ワタシ、あなたの問題を解決できるかもよ。お金の心配のない余生を送ってみない?」

「え、そんな都合のいい話、本当にあるの?教えて!教えて!」 (続く)

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